白い眼は老いの証なのだろう。僕の姿は見えないはずだ。
 ただじっと立ち尽くす白い眼。右の角が折れていた。

 たぶん車とぶつかったのではない。何かの拍子で崖から道路に転落したか。見えぬ眼で森へ帰ろうとして、コンクリートの崖や車にぶつかって、脳震とうでも起こしていたか・・・?
 しばらく一緒にいると、白い眼の呼吸が深く落ち着いていくのがわかった。

 年老いた白い眼が森へと帰れるのかはわからない。でも、ここから先は人間が踏み込んではいけない領域のように思えた。僕は白い眼を後にして、その場から離れることにした。

 そして3時間後、僕はその後を確かめに来た・・・・。

 白い眼のカモシカは取り巻く車に視線を投げ、後ろの林へと消えていった。
 そして、たくさん止まっていた車はあっという間にいなくなった。
 僕は一人残される。どうすべきか考えたが、わからなかった。ただただ、暗い林の奥の不吉の影が怖かった。

 一度車に戻り、少し考えてから、やっぱり白い眼のところへ戻ることにした。理由などわからない。でも、誰かが見届けなければと思ったような気がする。
 ・・・・そして、僕は暗い林の中で、白い眼と二人きりになった。

平成19年11月 栃木県鹿沼市

 そのまま、もう動かなくていい。ゆっくりと休むがいい。おまえはがんばった。

 帰り際、あんなに痛ましかった血がすっかり止まっていることに気づいた。もうこれ以上、僕はこいつに関与できない。たぶんおまえは森へ帰れるはずだ。そして、どこで死ぬかは自分で選ぶがいい。

 はいつくばって、立ち上がって、僕の前で横たわっている白い眼・・・・・。
 生きるということは、たぶんそういうシンプルなことの積み重ねなのだと思う。

 さあ、森へ帰ろう。森はきっとおまえを守ってくれる。

(2007.12.6公開)

bunbuku

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 でも、生きる意志は折れない。

白い眼のカモシカ 1 (2007.12.6公開)
白い眼のカモシカ 2 (2007.12.6公開)

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bunbuku

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 白い眼は同じ場所で座り込んでいた。力尽きた様子ではない。きっと力を蓄えているのだ。一つ一つのしぐさにぎこちなさが消えていた。

 生きる意志が立ち上がった!

生きる意志は前に進む。

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 白い眼が僕を見つめる。これが野生で生きるということなんだよ、と語る。
 野生で生きる身に、老いたからといって「のんびり暮らす」なんて許されない。自然の中では、すべてのものは等しく平等なのだ。若くても、幼くても、老いていても・・・・。

bunbuku

白い眼のカモシカ・その2
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